3000文字チャレンジ

Twitterといんげん【3000文字チャレンジお題「野菜」「好きな場所」】

独身男性の朝は早い。

目覚ましをセットしているわけでもなく、徹夜して寝なかったわけでもない。
むしろ心地よい目覚めと共に、朝食を作る。

独身なので朝食を作ってくれる人は自分以外にいない。

家政婦さんもいないし、便利なロボットなんて高すぎて買えない。

全部自分のことは自分でやる。
専業主婦の奥さんとかがいれば話は変わってくるんだろうが、僕には伴侶はいないし彼女もいない。

彼女がいないことに対しての劣等感や危機感を持ったことはないが、「彼女いない歴=年齢」でもない。

世間一般には至って平凡なサラリーマンに見えているのではないだろうか。

このまま平凡に結婚してサラリーマン生活で、子供が生まれたりで老後を過ごし、そして一生を終える。

 

なんとなく自分の人生のレールは、そう敷かれているのではないかと気づいたのは高校生の時。

大学受験と就職の2択を迫られ、僕は就職を選んだ。

早く親孝行したいからとか、勉強したくないからという理由ではなく、「家族と縁を切りたかったから」

就職してお金を稼げば、誰も文句は言わないだろうし社会人として見られる。
もちろん当時はまだ未成年だから、堂々と飲み屋でお酒を飲んだりタバコを吸ったりはできない。

その点一人暮らしだと、自室で何をやってもお咎めなし。
それほどお酒も飲めないしタバコは吸わないけど。

 

あれから10年。

気づいたら僕ももう30歳手前。

社会人になって10年で色んなことがあった。
転職もしたし、別れたけど彼女もいたし、借金もしたし、仕事でお客さんに殺されそうにもなった。

平凡な人生とはかけ離れたかもしれないが、周りから見たら「そんなことみんなあるよ」と当たり前のように言われそうで誰にも相談した事はない。

もともと友達も多い方ではないし、基本的に人と話すことは好きではない。

 

そんな僕の唯一の居場所といってもいいのがTwitter。

 

Twitterをはじめたのは10年前。
当時流行っていたドラマの影響で、なんとなく始めた。

そのドラマではTwitterを通して運命的な出会いが描かれていたが、現実はそう甘くはなく出会いなんて全くなかった。

でも、Twitterで知り合った人たちは皆面白かった。
今でも数名で話したりする。

朝の日課は、朝食を食べ終えコーヒーを飲みながらTwitterを見ること。

一流企業の経営者や芸能人と比べると、僕のアカウントのフォロワー数は10数名で影響力なんてほぼ無い。

でも、そんなことは関係ない。
僕は親しい人と話せればいい。

このTwitter内のコミュニティが心地いい。

いつものようにスマホでツイッターを開くと、そこには見慣れた光景。

 

通知「20件」

 

いつもと同じメンバーでの会話が飛び交っていた。

真面目な話
他愛ない話
バカ話
エロい話

何でもアリ。

言うならばTwitterというツールを使ったチャットみたいな感じ。

学生時代、教室内で数人とワイワイ喋るように、好きなことを好きなように140文字以内の言葉にする。

相手がどんな容姿なのかも分からず、性別や年齢など一切の情報は分からない。

 

「Twitterは広告宣伝!いかにフォロワー数が多いかだ!」

「インフルエンサーの言うことに対して反論して炎上させよう」

「意識高い系のツイートをしないとTwitterでは生き残っていけない!」

 

なんて言われてるらしいけど、僕は全然そうは思わない。

一度も会ったことがないデジタル上の付き合いかもしれないけど、画面の向こう側には人がいる。

心の通った人間がいる。

そんな気の知れた仲間たちと話す、この時間が好き。

そんな朝の日課であるTwitterの通知を見てると、知らないアカウントがいた。

 

アカウント名:いんげん

 

ごめん、正直いんげん嫌いなんだ。
見るのも嫌いだし名前も嫌い。

小学生の時、おばあちゃんにもらったいんげんを食べてたら中から青虫がニョロって出てきたのがきっかけ。
そこから虫も嫌いになったし、いんげんも嫌い。

いんげんと同じように細長いアスパラガスも嫌い。
今では食べれるようにはなったけど、好んで食べない。

というかスーパーとかで見ると吐き気がする。

 

名前で判断しちゃいけないんだけど、第一印象は最悪。

過去ツイートを遡ってみると、みんなと仲良くしているようなので僕も文章を書く。

 

「こんにちは、初めましていんげんさん」

 

なんとも愛着のない文章。
ま、いっか。それで嫌われたらその時はその時。

 

ポチッとな。

 

数分後に返事が返ってくる。

 

「初めまして!!(๑╹ω╹๑ )こちらこそどうぞよろしくです!!フォロワー数全然いないですけどw」

 

なんとも顔文字が可愛らしい。
フォロワーを気にしている人なんだろうか。

僕自身あまり気にしてないけど、いんげんさんってフォロワーどんくらいいるんだろ?

 

フォロワー:5

 

5人ってこと?
いや、内訳が全部bot。

つまり実質的には0ってことになるのか。

 

なんだかかわいそうに思えてきた。

まだ知り合って数分しか経ってないし、年齢、性別、出身などの情報は一切わからない。

彼と呼んだらいいのか彼女と呼んだらいいのかすら分からないし、過去ツイートも全く見てない。

 

けれど、SNSというツールは誰かの発言を見たり自分が発言するのを楽しむ場でもあると思う。

誰でも発信者になれるけど、見てる人が誰もいない。

 

そう思った僕は無意識にいんげんさんをフォローした。

特に意味はなく、なんとなくこの人が気になったから。

好きとか嫌いとかそういうのは全くなく、ただ気になったから。

それだけ。

 

 

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このフォローがきっかけで、よく話すようになった。

ただ未だに性別や年齢などプライベートな情報は一切わからない。
それもSNSの楽しさだと思ってる。

直接面と向かって話してはいないけど、画面の向こうにはあなたがいる。

 

どんな人なんだろうか。
何度も気になったが、聞いたら今の関係が壊れそうで聞けなかった。

いんげんさんはとっても面白くて、いつまでも話題が尽きなかった。

 

時にコミュニティのみんなと話したり
2人で話したり

 

次第に、いんげんさんと話している時間が多くなった。

 

 

だが、そんな時間も永遠には続かない。

 

 

人間というのはどうして争いが絶えないのか。
同じホモ・サピエンスとして恥ずかしくないのか。

 

現在でもテレビをつければ嫌な報道ばかり。

誘拐

殺害

脅迫

強姦

DV

戦争

どのニュースでも毎日何かしらの事件や事故が起こっている。

 

そう思った僕は、もう何十年とテレビを見ていない。

テレビを見ていなくても情報は嫌でも入ってくるし、何の問題もない。
スマホでヤフーニュースの通知が入るように設定してるし、会社で他の人から聞いたりする。

わざわざ嫌なことに時間を使わずに、自分の好きなことをしていたい。

 

今の僕で言うならTwitter。
今日も慣れた手つきでTwitterを開く。

 

そこは、いつもと違う雰囲気だった。
僕が仲良くしている人達で挑発的な言葉や罵倒が飛び交ってるのを目にした。

対象となっているのは、いんげんさん。
何をしたかわからないが、どうやらとある芸能人に対して悪く言ったようだった。

なんでも、その芸能人はフォロワーが1000万人いるらしくTwitter界隈では「神」と言われているらしい。
神ってなんだよそれ、気持ち悪い。
関わりたくない。

 

僕自身、それほど詳しくないがその芸能人は世間でも好印象だった。
なので悪口を言ったいんげんさんが叩かれている。

そんな様子だった。

 

見ていてとても気分が悪い。
まるでイジメだった。

確かに芸能人を悪く言ったいんげんさんに非はあるのかもしれない。
だが、それを全員で総バッシングする必要性が分からない。

 

つくづく人間という知能だけが他の生き物より長けているだけで偉そうにするクソみたいな生命体が大嫌いだ。

 

そう思った僕は、いんげんさんに対して攻撃的な言葉を発しているアカウントを全部ブロックした。
今まで仲良く喋っていたけれど、そんなの関係なく全員。

 

今まで仲良くしていたけれど、誰かひとりに対して言うのは耐えられなかった。

気が付いたらフォローしているのは、いんげんさんとbot数件。

Twitterに対して嫌な気分になったし、もうアンインストールして辞めようかと思った。

 

でも、いんげんさんはどう思っているんだろう。
このまま辞めたら、僕といんげんさんの繋がりは途絶えてしまう。

名前も性別も年齢も人種も好きな食べ物だって知らないあなた。

Twitterだけの繋がり。

 

勇気を出して聞いてみた。

 

「一度直接お会いしませんか?」

 

 

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そして当日。

あの後、いんげんさんはすぐに承諾してくれた。

 

顔も性別も何も知らない人と会うのは正直ドキドキするし、不安だった。
でも言わなきゃ後悔すると思って、勇気を出した。

そして今は待ち合わせ中。

 

時刻は13:50。
あと10分で約束の時間。

 

「あの、もしかして・・・・。」

僕に話しかけてくる一人の女性が、そこには居た。

 

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「はいっ、これがきっかけだよ。」

「それでそれで????続きは????」

「続きはまた今度ね、そろそろお家着いちゃうし」

「ええぇ~~~ここからが面白くなりそうなんじゃんか」

 

二人仲良く手をつなぎながら、帰り道を歩く親子。

 

「それにママが芸能人だったなんて、今知ったもん」

「まぁ確かにパパも言ってなかったからなぁ。でもパパの時だって結婚式の2日前まで知らなかったからね」

「そんなの知らないし!まぁパパみたいな人もママみたいな美人と結婚出来てよかったね!」

「パパみたいなってなんだよ!」

 

 

「「ただいま~」」

 

 

「あら、おかえりなさい♪」

「ママ、今日の夕ご飯はなぁに??」

「今日はハンバーグといんげんのバター炒めだよ♪あなたの大好物でしょ?」

「あぁ、そうだね、大好きだよ」

頬を赤くしながら男は言った。

 

「なになに?チューするの???」

「しないよバカ!はやく手洗ってきな!」

「は~~~い(絶対チューするんだな)」

 

 

 

今ではここが僕の居場所。
大好きな場所。